に残った兵はどうす

「勝敗が決した後とて、殺せば少なからず遺恨は残る。
元へ戻せば、今後連綿と続く恩が売れるぞ」
「ならば残らぬよう、皆殺しに」
「お前の手の中に残った兵はどうする。そ奴らにも遺恨が
残らぬとは言い切れん。今日まで共に戦った仲間だ」
「遺恨の気配があれば、その者も殺します」
「…お前の兵をか」
「はい」

間違ってはおらん。双城の兵に関し、俺に決定権はない。
どうする。
このままであれば、イ・ソンゲは本当にあの兵たちを斬る。
まして遺恨が残れば、己の兵すら斬ると言い切るこ奴。

「イ・ソンゲ」
「はい、大護軍」
俺へと頷くその顔に今、一切の二心は感じぬ。
俺に対する忠心を、何故に己の兵には持てぬ。

「お前が斬ろうとしているのは、敵ではない。
己と信義を別にしただけの味方だ。
捕縛された兵にとっての敵は、むしろ俺たちだ。
話をしてみようとは、説得してみようとは思わんのか」
「大護軍」
「ましてお前の言うとおり、すでに勝敗は決した。
戦は終わった。あとは引き上げるだけだ。
まだ説得の時間は、残っているのではないか」

俺にとっては目を輝かせ鬼剣を見つめた、
憧れるように俺に武勇伝をせがんだ子供。

その男が遺恨を残すなら味方を斬っても構わぬと、
そう言うようになった。

ましてやここに味方の兵を預かる、その代表者たちが
列席しているにも関わらずだ。

俺は息を吐いた。これ以上こいつに話させれば、
己でもそうと気付かず、立場を悪くするだろう。

「俺は王様から、此度の全権を一任されている」

静かに告げ、懐の号牌を指先で掴み出して長卓に置く。
揺れる灯の中置かれた号牌に、列席者の目が集まる。
「この号牌の元、高麗大護軍として伝える。イ・ソンゲ」
「はい」
「双城総管府で捕縛した全兵は、一旦開京へと連行する。
その上で詮議の後、その身柄の扱いを決定する。
高麗の落した双城総管府、その兵ももはや高麗の財産だ。
功労者といえど、一存で処罰することは許さん。良いな」
「…仰せの通りに」

それだけ言って、ソンゲは頭を下げた。

俺のこの声に、お前の味方の兵たちの表情が
僅かに安堵に緩んだしたことに気付かんのか、ソンゲ。
周囲を見ろ。誰がまずお前のために戦ったかを。
誰がその声に従い、一つきりの命を懸けたかを。

それが出来ねば、自身が後々悔いることになる。
要らぬ血を流し、喪わず済むはずの命を失って、
取り返しのつかぬことになる前に。
忘れるな、命は一つきりだ。
自身だけでない、敵も同様。
その命を奪い、背負う覚悟で斬っていけ。
まして味方を斬るなどと、簡単に吐くな。
他の場所ならまだしも、その兵を預かる者たちの前で。

この若い男に、どこまでそれが伝わっているのか。
判じきれず揺れる灯の中、目前のソンゲを凝視する。