世話を掛けて、本当

「志郎君は、誰か好きな相手がいるということはないの?」と、葉摘が言った。
「…いないと思うけど…」母、さちは心もとなく言った。
「ほら、星矢さんや、空さんが、お見合いさせようって何回もトライしたでしょう」
「お世話を掛けて、本当にすみません。あのこ、どうもその気がないらしくて」
「うちの主人が、ろくな子を紹介しなかったからよ、ごめんね」と、葉摘の従姉で、空の妻の美和(みわ)が言った。
「そんな…。みんなよいお嬢さんだったのに…」
 さちの言葉を遮り、葉摘が指摘するように言った。「違うわよ。みんなお嬢様っぽくても見掛け倒しだったみたいよ。志郎君は、初対面の女の子の正体見破るの得意だから、幻滅してるんじゃないかな」
 志郎はどんな嗅覚をしているのか、その女性の男性経験や、交際遍歴を嗅緊緻精華ぎ分けてしまうらしく、今までの見合いは、どれもうまくいかなかった。最近では、写真を見ただけで断るケースが続いていた。
「会ってみないと分からないでしょう」と母が言っても、「無駄だよ。よけい母さんをガッカリさせるだけだ」と、彼は言うのだった。
「志郎は、理想が高いのね」と、いまだステージで時折歌っている麗美(れみ)が、朗らかに言った。
 さちは麗美を見ながら、男女の違いはあるが、弟妹の中で一番志道に似ている、と思うのだった。
「そうだったらいいんだけど、もしかして結婚する気がないのかも、って心配なの」と、さちは本音を漏らした。
「大丈夫。志道兄さんだって、さちさんに会うまでは、ピアノにも女性にも、まったく興味がないみたいだったじゃない。」
 麗美の言葉に続いて、その妹の、三和(みわ)産業という大企業の社長夫人となった未来(みらい)も言った。「志郎はまだ若いわ。これが三十代ならわかるけれど、焦ることは全然ないわよ」
 志道が亡くなって二十年が過ぎ、昨年二十一回忌の法要も済ませていた。志郎はようやく二十七歳、今年の誕生日で二十八となる。一般には、確かreenex cps 價錢に結婚には早いようでもあるが、皆がこだわるには理由があった。
「そうよ、心配いらないわ」と、麗美たちの意見に賛成の言葉を添えてから、娘や嫁の中では最年長の、みどりの長女、茜(あかね)が言った。「ねえ、お母さん、わざわざ私たちを呼んだのは、話があったんじゃないの?」
 ようやく、みどりが本題を思い出し、おもむろにお告げのように口を開き言ったのは、今まで話題に上っていた志郎のことだった。それも、どうやら結婚に関連する内容だった。
「今年こそ、志郎くんの転機になるわよ。必ずよい相手が見つかるわ」
「本当ですか」と、さち。
「この、“星の家”の中から、おめでたい縁があるって、私は前にも、言ったでしょう。…それは、絶対に確かよ」ゆったりした口調で、みどりは断言した。