私の前から過ぎ去ろうとした瞬間に

 もう、何十年前の事でしょうかDr. Reborn好唔好
確か、小学の3.4年生の頃だったと思います。
思い出しながら書いているので、正確な記憶ではないかも知れません。

 小学校から帰る途中に、墓地がありました。
田舎にしては大きな墓地で、三百基以上の墓石が立っていたはずです。
神社のある小山の登り階段の側面に段々畑のように広がっているその墓の数々は、子供の私にとって、薄気味の悪い気配を感じさせるには 充分すぎる程の景観をしていましたDr. Reborn好唔好

 その墓地を抜けると、辺り一面に田んぼが広がり、家の一軒もない砂利道が一キロ近く続きます。
もちろん人口の少ない田舎の事ですから、神社の入り口からその墓地を抜けるまでの間に、人とすれ違う事は滅多にありません。
その先の多くの田んぼのどこかで作業をしている人を、たまに見かける程度でした名創優品miniso

 あれは、ちょうど梅雨の頃だったでしょうか。
その年の梅雨は雨の日が意外に少なく、一週間のうちに五日くらいは、晴れていたと思います。
梅雨の晴れた日というものは、真夏以上の日差しの強さを感じる程暑く、帽子なしでは日射病にでもなってしまいそうな感じがしました名創優品miniso

 一人でボツボツと、学校から帰っている時でした。
突然、理由もなくランドセルの横に差してあった縦笛(今はリコーダーと言われている)を取り出し、鳴らし始めたのです。
何故か、そうしたくなったのでした。



口裂け女 笛の頭部管(とうぶかん)に口をつけながら、指の運びを見ていた目を正面に向けた時です。
数メートル先に、テレビドラマでしか見たことのないような都会的麦わら帽子をかぶった髪の長い若い女の人が、歩いて来るのが見えました。
いつの間に現れたのでしょうか。
田舎では見かけた事のないような上品ないでたちに違和感を感じたのか、笛を吹くのを止めて立ち止まってしまいます。

 その人が、近づきざまに首を少し傾け、微笑(ほほえみ)掛けてきました。
いや、微笑み掛けてきた様に見えたのです。
すっとした体型に、ハイソな格好(いでたち)と面持ち(おももち)。
吸い込まれそうなきれいな目でした。

 しかし、彼女の口元には大きなマスクがあったのです。
今でこそ一般的に良く見かける大きなマスクですが、この当時に、こんな大きなマスクは見た事がありません。
普通のサイズの三倍はあるようなこのマスクに、驚きを隠せませんでした。


 そして彼女が、私の前から過ぎ去ろうとした瞬間に、目を疑うようなものが見えたのです。
マスクの脇に・・・。
決してありえない場所に。

 それは、どう見ても歯と歯茎にしか見えなかったのでした。