電車

以前は電車が止まりドアが開くと、人の流れに乗ってホームを歩き階段を昇り改札を出ていったのだが、その時は電車を出てホームを歩いて階段に着く頃には人の流れの最後尾となっていた。今までと同じような場所から電車に乗り降りしているのに、なぜ最近はこんなに最後尾になることが増えたのだろうかと不思議に感じることもあったが、オフィスに向かっている途中で何らかの理由で仕事が休みになればいいなと思いながら歩いているせいであるということも当然気付いていた如新香港

そんな風に子どもが思うような具体性のない願望なんて何にもならないことなど百も承知ではあったが、階段を昇る時に気持ちの重みや疲れがずしりと響くたびに、自然とそう思ってしまっていたnuskin 如新

 そんなある日、あずまぬめりは最後尾を歩いていた私より更に後ろから私の横をぬめるように抜き去り、あっという間に階段を昇っていった。肩の横をぬめる気配を感じて前を向き紺色のリュックを見つけると、またあいつかと私は苛立たしく思った。こういう風に秩序を乱して自分勝手をするやつがいるから困るんだよ、と小さく呟いた奢侈品

 数歩階段を昇った時、私は再び肩にぬめり感を感じた。横を向くとそこには先程階段を昇っていってしまったあずまぬめりがいた。あずまぬめりは私の顔を見ようともせず、「肩の幅と肩の厚さを違いを理解すること」と言った。突然話しかけられ尻込みする私を全く気にすることなく、あずまぬめりは「肩から指先にかけては指示器の代わりにもなる」と続けた。

「階段一段の奥行きと高さ、歩幅、パーソナルスペースの範囲を知ること」

 それだけ言うとあずまぬめりは、親指をあげてグーというジェスチャーをしたかと思うと、ぬめるように階段を昇っていってしまった。

 

 

 私は会社に着くと自分の椅子に座り、両腕を横に広げた。そして今度は前を向いたまま体を捻り、両腕を前後に広げた。後ろに広げた手の平が背後の席の同僚の肩に触れた。